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『1/120のドラマ』  舞台監督日記19

120人分、それぞれのドラマがある・・・そんな思いで、袖から見ていた私。

幕が降りる時のみんなの顔は、誰も彼も充実感に満ち溢れ活き活きした顔だった。
客席に手を振りながら袖に入ってくるみんな。
インカムをしながらアイコンタクトを送る私に、みんなは満面の笑みで応えて、楽屋へと消えて行く。

誰1人として泣いている・・・涙を浮かべている子は居なかった。
すごい!!さすがプロフェッショナル!!!
そして、楽屋へ急ぐみんなの背中、一つ一つはとても逞しく見えた。
2時間前と同じ人間だとは思えないほど・・・。

全てが終わり、劇場を後にして1人車での帰り道。
本番中のみんなの顔を1人1人思い出していた。
そんな時、ふと、レッスン中の休み時間に、ある1人の子が流した涙を思い出した。

その子は今までかなり活躍してきた子。
かく言う私も彼女の声は大好き!!“本当にいい声”といつもほれぼれするほど・・・。
その彼女は今、受験勉強と学校の勉強に追われ、今までのように合唱団の活動に参加できなくなってしまっている。
今年の受験生ではないので、この状態が最低でも後1年は続くのだろう・・・。かわいそうに・・・。

大好きな歌が思うように歌えない。
大好きな合唱団になかなか通えない。
気の合う仲間との時間が激減してしまった。
それだけでなく、今、自分は合唱団の為に・・先生方の為にも一番活躍するべき!
活躍できるはずなのに・・・自分が一番良くわかっている・・・もどかしいだろうに・・・。

でも、でも、彼女は大好きな両親の期待にも応えたい。
自分がそんなに器用な人間でない事も良くわかってるのだろう。

彼女は小さな胸を痛めてずっと悩んでいたのだろう。
数ヶ月前、彼女は「退団」の選択をも考えていた。

もともと体の小さな彼女が、さらに体を小さくして、事務所に1人訪れた。
(秋が深まる頃だったかな?)
そして、麻子先生と一対一で話しをした。
私は少し離れた所で、気にしないふりをしながら思いっきり耳をダンボにして、仕事をしていた。
彼女は一生懸命、思いを伝えるべく言葉を発しようとしながらも、涙が溢れ出て言葉にならない・・・。

その姿を見た麻子先生は、優しく彼女を落ち着かせ言葉をかけていた。
その言葉はなんと言ったか、私には聞き取れなかった・・・。

が、その結果、彼女は今も尚、歌い続けている!!
自分の思い通りにはならず、色んな事を我慢しながらだろうけど、それでも何とか退団せずに歌い続けている。

そんな彼女に、今回MCを頼んだ。ほんの少しのMCだけど、
「私、あなたの声が聞きたいんだ!」と、肩をポンと叩き頼んだ。
彼女は意外な顔をしながらうなづいた。あまりにも神妙な顔をしてるので、
「だって今まで頑張ってきたじゃん!今は辛い時期だろうけど『今でも私は頑張ってます!!』って胸張っていいよ」
と言うと、彼女の顔は急にクシャクシャとなり、大粒の涙がポロポロと溢れ落ちた。

それまで、歯をくいしばり、プレッシャーと戦いながら、周りに置いてかれまいと必死で踏ん張ってきたのが、一瞬にしてゆるんだかのようだった。

そして、その崩れ落ちそうな彼女を支えたのは受験を乗り越え、色んなプレッシャーをはねのけ、戻ってきたばかりのMちゃんだった。

たった1、2分の出来事だったのだけど、もの凄い濃い時間だったと思う。
すんごいドラマが濃縮された数分だった。

あの一瞬に流した彼女の涙の美しさは忘れられない。
それほどまでに輝かしいものだった。

1/120のドラマ・・・。
色んなドラマがあってこその本番だったのです。

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